ネギまとFateのクロスオーバー小説を書いていこうと思ってます。
カレンダー
最新記事
(11/21)
(11/20)
(11/06)
(10/21)
(10/18)
カウンター
プロフィール
HN:
蒼海
性別:
非公開
自己紹介:
細々と生きてます。
メール:
endlesswind@hotmail.co.jp
@を半角にして送ってください。
メール:
endlesswind@hotmail.co.jp
@を半角にして送ってください。
最新コメント
最新トラックバック
ブログ内検索
アクセス解析
「おっはよー衛宮さん」
「おはよう」
快活な挨拶を投げかけていく朝倉に士郎は挨拶を返す。
「衛宮先生おはよー」
「おはようございまーす」
その脇を柿崎、釘宮の二人が挨拶と共に駆け抜けていく。
そこに違和感はなく、あるのは短いながらも積み重ねられた日常の欠片。
そんな、新たなの教師の姿が学園の風景の一部となって久しいある日のHRのこと。
「えーと、みなさん聞いてください! 今日のHRは大・勉強会にしたいと思います!」
教壇に立ったネギは開口一番、高らかに宣言した。
「次の期末テストはもうすぐそこに迫ってきています。あのっそのっ…、実はうちのクラスが最下位脱出できないと大変なことになるので、みなさんがんばって猛勉強していきましょ~~!」
「ネギ先生、素晴らしいご提案ですわ」
突然のことにクラスがざわめく中、すかさず雪広が賛同の意を表す。
「はーい、提案提案」
「はい! 桜子さん」
「では!! お題は『英単語野球拳』がいーと──」
「却下」
椎名の提案に色めきたちかけた教室に、やや硬い士郎の声が通る。
「えー!? 衛宮さんも楽しく勉強出来たほうがいいと思いませんか!?」
「……君らの場合、最終的に楽しむが目的になるのが目に見えてるからな。テストも近いんだし、机に噛り付くようにやれとは言わないから、な?」
「当然ですわ。皆さんもそれでよろしくて?」
「はーい」
後を継いだ雪広の言葉に、生徒達は返事と共に思い思いの席へと移動する。
「いいと思うんだけどなぁ、英単語野球拳」
「………」
納得はしたが理解はしていない桜子のぼやきに士郎が額に皺を寄せていると、教壇の前に立っていたネギがおずおずと顔を寄せる。
「あの、なにかまずかったでしょうか?」
「まずいっていうかだな……、そうだな、野球拳っていうのはね──」
ネギに野球拳について説明する士郎。
最初は興味深そうに聞いていたネギの顔が、話が進むに従い面白いくらいに青に染まっていく。
そして最後には、
「な、なんて能天気な人達なんだ……」
体を小刻みに震わせる一人の教師の姿が、そこにはあった。
「確かに、能天気であることは否定できないな……」
一人同意しつつ、目の前の絶望に打ちひしがれるネギの態に、士郎の脳裏には違和感と時を同じくして疑問が過ぎる。
「そういえばネギ君、テストが近いのは確かだけど、いきなり勉強会だなんてどうしたの?」
肩に手を置き訊ねる士郎に、ネギは青ざめた顔はそのままに胸元のポケットから一通の封筒を取り出してみせる。
「……実は、学園長先生から僕への最終課題が出されてまして」
「最終課題?」
唐突に登場した単語に首を傾げつつ、手渡された封筒から覗く一枚を紙を取り出し、現れた書面を黙読する。
『ねぎ君へ
次の期末試験で、
二ーAが最下位脱出できたら
正式な先生にしてあげる。
麻帆良学園学園長 近衛近右衛門』
「………」
「………」
「じゃあアスナ、この意味はなーんだ?」
「う……」
「アスナー、10問連続やえ?」
「う、うるさいわねっ!」
「アハハハ」
教室に響くは笑い声。
何の憂いもない、心の底からの笑い声。
「あー、これはまた……」
「最初これを見たときは簡単そうだと思ってたんですけど……」
言いつつ、二人は笑いの淵源に恐る恐る視線を向ける。
「アスナ、これで15問連続不正解~♪」
「ど、どうしましょー」
「……どうしようか」
二人の間に沈黙が漂う。
だがそれも一瞬のこと。
「と、とにかく、これからどうするべきか考えようか!?」
「そ、そうですね!」
涙目でうろたえる子供先生と途方に暮れる新米教師だったが、止まったらそこで終わり、もう立ち上がれない、と言わんばかりに小声でいそいそと話を進める。
「まずはみんなの成績を確かめようか。ネギ君、成績表ってあるかな?」
「はい」
返事と共に開かれた名簿を二人が食い入るように見つめる。
「学年トップ級が三人もいますね」
「ああ。だけど、それ以外はちょっと厳しいかもな……。特にこの五人は」
「そうですね……」
士郎の指先の先、ネギの視線の先には五人の名前。
神楽坂明日菜、 長瀬楓、 綾瀬夕映、 古菲、 佐々木まき絵。
一言でいえば、バカ 五人衆。
以前の補習授業の光景が脳裏を通り過ぎる。
「……テストは確か来週の月曜日からだっけ?」
「はい……」
「ってことは、今日をいれても後三日か……」
「三日、ですか……。あ、そうだ!」
士郎と同じく表情に絶望の影を侍らせていたネギだったが、唐突に何かに気付いたように顔を上げそのままの勢いで口を開く。
「確か三日間だけとても頭のよくなる禁断の魔ほ───」
「あは、あははは、ちょ、ちょっと聞きたいところがあるからこいつ借りてくわね!」
ネギが最後まで言い終わるより先に、文字通り跳んできた明日菜があからさまな愛想笑いを浮かべながらネギの襟首をむんずと掴むと、有無を言わせず教室を飛び出していく。
「……はあ」
好奇の視線が扉に集ったのもつかの間、慣れたことなのかすぐに喧騒を取り戻す教室で士郎は静かにため息を吐き、ネギの帰りを待つ。
ネギが戻るまでには、HRが終わるまでとほぼ同じだけの時間を要した。
「あ、士郎さん」
「おかえり、ネギ君」
生徒達が帰り支度をする中教室に佇む士郎の姿を認め一瞬ネギの足が止まるが、すぐに駆け寄ると、そのまま頭を下げる。
「さっきはすいませんでした」
「まあ、済んだことは仕方ないけど、これからは気をつけてね。それで、この後はどうするのかな?」
あえて曖昧な言い回しで問いかける士郎に対し、ネギはその意を汲みはっきりと頭を横に振る。
「……魔法はさっき封印してきました。確かに魔法を使えば、最下位は脱出できると思います。でも、それじゃみなさんのためになりません。だから、今回は一教師として生徒とぶつかります」
捲られた右袖の下には、1~3のローマ数字を結ぶ三本の黒いライン。
それを目にし決意を新たにしたのか、ネギの言葉に力がこもる。
「まずは明日の授業のカリキュラムを組もうと思います!」
「そっか」
士郎は握りこぶしを作り決然と言い放つネギに目を細める。
「それじゃ俺も副担任として手伝うよ。一緒に頑張ろうか」
「はい! ありがとうございます!」
「く、ああ……」
麻帆良学園女子寮の一角、管理人室で士郎は固まった背筋をほぐすように一度伸びをしてから、目前の机に雑多に並ぶ翌日の授業の内容が記された用紙に目を落とす。
「ふう……」
教師といういまだ完全に慣れたとはいえない仕事故に感じる、疲労の色の篭った吐息混じりにネギと共同で組み上げたそれを頭の中でまとめていると、
「衛宮さん大変だよー! ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に……!」
早乙女と宮崎が叫びながら管理人室に飛び込んできた。
「行方不明?」
「そうなの! 一緒に魔法の本を探しにこのかも──!」
「早乙女、少し落ち着け。慌てる気持ちはわかるけど順を追って話してくれないと状況が掴めない」
「う、うん」
早乙女が数回深呼吸をするのを確認してから、士郎は眉を曇らせ口を開く。
「それで、行方不明ってどういうことだ?」
「今回のテストで最下位になったクラスは解散、そのうえ特に悪かった人は留年どころか小学生からやり直しとかって噂があって……」
「………」
にわかには信じがたいその内容に、しかし行方不明という単語が話の腰を折るのを躊躇わせる。
「そしたら、図書館島にあるっていう読めば頭がよくなる『魔法の本』を取りに行こうってことになってバカレンジャー達が向かってたんだけど、さっき悲鳴が聞こえたと思ったら急に携帯が切れて、それから誰とも繋がらなくなっちゃったの」
「悲鳴か……」
「え、衛宮先生、私たちどうしたら……!?」
「宮崎も落ち着け。あのメンバーに限って何かあったなんてことにはならないさ」
長瀬の泰然とした表情を頭に描きながら目尻に涙を浮かべる宮崎を慰めの言葉をかけた後で、士郎は大分落ち着いた様子の早乙女へと向き直る。
「このことは他の誰かに伝えたか?」
「ううん。とにかくこの時間に起きてそうな人のところ、って一心不乱にここに来たから」
「そうか」
それだけ答えると、士郎はいつか学園長から受け取った携帯を手に取る。
「とにかくまずは学園長に連絡しよう。それと、図書館島の地図とかってあるか?」
「あるけど、もしかして衛宮さんも図書館島に行くの!? あそこって結構危ないよ!?」
「ほ、他の先生と一緒に行ったほうが……!」
「大丈夫、心配するな」
心配そうな止めに入る二人に向けて、士郎は諭すように話しかける。
「もちろん、学園長から人を向かわせてもらうさ。でも、その人たちがもし図書館島の道を知らなかったら困るだろう? その時の備えだよ」
「そういうことなら……。って、あ、あれ? 私地図どこやったっけ?」
「ハルナ、もしかしてさっきの処に置いてきたんじゃ」
宮崎の指摘に、早乙女はあー、と頭を抱える。
「あ、でも、私の部屋にも同じものがありますー。いますぐ取ってきます」
「私も一緒にいくよ」
二人が部屋を出て行く。
扉が閉まるのを確認すると携帯を開き、ボタンを操作し電話をかける。
三度の呼び出し音の後で、目的の人物に繋がる。
「もしもし」
「もしもし、学園長ですか」
「そうじゃが。こんな時間にどうかしたかの?」
「ネギ君たちが図書館島で行方不明になったようです。これから救助へ行くので、一応応援をお願いします」
「おお、それなら心配いらんぞい。こちらで逐一状況を見届けておるからの」
「────は?」
「このか達はいま図書館島の地下におって全員無事、といえばわかるかの?」
電話越しに届くのはフォフォフォという哄笑。
もちろん、その説明だけですべて理解できるはずもなく、
「………どういうことですか?」
「そうじゃの。衛宮君は、ネギ君の最終課題については知っておるかの?」
「次のテストで最下位脱出できたら、っていうあれですか?」
「うむ。なにぶんまだ子供じゃからのう、今後も先生としてやっていけるかどうか見ておきたくての。じゃがの、ネギ君は一先生であると同時に魔法先生でもあるんじゃよ」
「──つまり、今回のことは魔法先生としての課題、ということですか。ということは、クラスは解散という噂が学園長が流したんですね?」
「そういうことじゃ」
理解が早くて助かるの、と付け加える学園長に、しかし士郎は心持ち低い声で問いただす。
「ネギ君や生徒たちに危険はないんですね?」
「モチのロンじゃ」
「しかし、さっき早乙女は悲鳴が聞こえたと」
「それはの、ワシがちょいと石像を動かしたからじゃろうて」
「……本当に、色々と大丈夫なんですか?」
「信頼してくれていいぞい」
その言葉にではなく、さすがに孫娘を危険な目にあわせることはないだろう、という推論を以って自身を納得させる。
「……わかりました。ですが、そういうことなら前もって一言あってもよかったんじゃないですか?」
「何かの拍子に衛宮君も一緒についていったら面白いと思ってのう」
「………。学園長、いまからそっちへ行ってもいいですか?」
「冗談じゃよ、冗談。ああ、それとの、ネギ君たちにはテストに向けてみっちり勉強してきてもらうからの、テストまでは戻らん予定じゃ。もちろん生活面に関しても抜かりはないぞい」
「それはわかりましたが……。生徒たちにはどう説明するつもりですか?」
「そうじゃのう……。まあ、詳しく説明する必要はないじゃろ。ネギ君たちに心配はない、とワシが言っていたと伝えておいてくれ」
「───という訳だが心配はいらない、とのだそうだ」
教室にいないネギたちの事情の大まかな説明が終わると、その所々に点在する空席と相まって教室は昨日とは違うざわめきに包まれる。
しかしそれは、どちらかといえば行方不明になっているメンバーへの心配といった類のものではなく、
「それより衛宮先生、今回のテストで2-Aが最下位脱出できなければネギ先生がクビというのは本当なのですか!?」
むしろテスト後に待ち受けるネギの進退に対してのものだった。
「……。うん、確かに本当なんだが……」
「それでは、バカレンジャーの皆さんはテストまでに帰ってこられますか!?」
「……何とかなるとは聞いてるな」
「わかりましたわ」
行方不明という状況をそれより、の一言で流す雪広を逞しいと称すべきか迷う士郎を尻目に、当人は手を顎にあて考え込む。
「……とはいえ、バカレンジャーの皆さんの点数アップは望めませんわね……。みなさん!!今回は一人十点増しでよろしく!」
「えー!?」
「ムリだってー」
「ではあなた達は、ネギ先生がクビになってしまってもよろしいんですの!?」
「それはイヤかも……」
「かわいそうやなー」
机をバンバンとたたきながら雪広が奮う熱弁に、歯抜けの教室のそれでもあちこちから賛同の答えが上がる。
「ではみなさん!テストまでちゃんと勉強して最下位脱出ですわよ。そのへんのいつも普段マジメにやってない方々も!!」
「げ……」
指差された先から届くうめき声にも耳を貸さず、委員長はテキパキと有無を言わせぬ物言いで指示を出していく。
「もちろん、ただ単純に勉強しろ、とは言いませんわ。私はこれからテストまで講師役をやりますわ。超さんハカセさん朝倉さんちづるさんも手伝っていただけますか?」
「わかたアルヨ」
「仕方ないなぁ」
「それではみなさん、何としてでも次のテストで最下位脱出しますわよ!」
雪広が力強く宣言すると同時に校舎に朝のHRの終了を告げる鐘が鳴り響く。
教壇で立ち尽くしていた教師がようやく口を開く。
「あー、みんな頑張ってくれ。それと刹那、少し話があるからこの後廊下に来てくれるか?」
「はい、わかりました」
それを聞いてから士郎は教室を出、向かいの壁に背を預ける。
待つほどの時間もかからず、さっそく雪広が鼻息も荒く音頭を取る気配が覗く2-Aの教室から刹那がやってくる。
「悪いな」
「いえ。それで話というのは」
「さっきの話だけどな。実はネギ君の課題の一環ということで学園長が一枚噛んでる。だから実際は遭難した訳じゃないし、全員ぴんぴんしてるそうだ」
「そうですか」
刹那は、初対面の相手ではわからないほど小さく安堵の息を吐く。
それを確かに見て取り、士郎は言葉を継ぐ。
「このかちゃんが無事で、安心したか?」
肩にかかる黒髪が小さく揺れる。
「それは──」
咄嗟に誤魔化すように動きかけた少女の口が、向けられた真摯な目に自らその動きを止める。
瞬き二回ほどの時間の後。
「……はい」
か細い声で、それでも本心を告げた刹那に士郎も自然と満足げな頷きを見せる。
「話はそれだけだ。時間を取らせてすまなかったな」
「あの」
「ん?」
刹那に呼び止められ、士郎は返しかけた踵を向き直す。
「何も、訊かないんですか?」
「意外か?」
「はい。士郎さんの性格ならすぐに尋ねてくるものと思っていました」
士郎は刹那の率直な意見に苦笑を漏らしながら話を紡ぐ。
「確かに訊きたくはあるけど、いまここで無理に訊くこともないと思ったんだ」
「それはどうしてですか?」
「だって刹那は、このかちゃんのこと好きだろ」
「なっ───」
見る間に頬が桃色に染まる様子に士郎はたまらず笑みをこぼす。
「まあ、話したくなったら話してくれればいい。俺としては今回はそのことが再確認できただけで充分」
それだけ言うと、士郎は廊下を歩いていく。
きっと士郎は笑っているのだろう、とその背中を見つめながら思う刹那を残して。
学園長の予告通り、遅刻しながらもバカレンジャーたちが無事テストに間に合い、無事テストを受ける。
流れるように日は進み、そしてテスト結果発表の当日。
学園長室では、机を挟んで士郎と学園長が向き合っていた。
「今回は色々と迷惑をかけてすまんかったのう」
「そう思っているなら、次からは事前に一言もらえますか」
「フォッフォッフォッ」
ただ笑うだけの好々爺然とした老人に、士郎はいつも通り諦観の嘆息を一つ。
「……いいです。それより、今日は何のようです?」
「大した事ではないんだがのう。衛宮君に先生としてのネギ君についてどう思うかを聞きたいと思っての」
「それは、今後のネギ君の進退に関わりますか?」
「いんや。これは単にワシの興味の問題じゃ」
その言質を得てから、士郎はいままでの出来事を思い返しながら言葉を選ぶ。
「そうですね……。授業はしっかり出来ていますし、生徒からも慕われています。魔法については……、まだ不安なところもありますが、魔法に頼ってばかりではいけない、ということも自覚したようですし、多分大丈夫でしょう」
「そうかそうか」
『──では、第2学年のクラス成績を良い順に発表しましょう!』
士郎の評を噛み締めるように学園長が二度、三度とゆっくり頷いていると、クラス成績発表を告げる微かなノイズ混じりの放送が学園長室に届く。
「む、いかんいかん。発表会は学生達が勝手に始めてしまうんじゃった」
学園長は引き出しから藁半紙を取り出すと慌てて部屋を飛び出していく。
呼び出した本人がいない以上もう用のない部屋に留まるわけもなく、士郎も小走りでその横に並ぶ。
「いきなりどうしたんですか?」
「実はのう、遅刻組の採点はワシがやっとってのう。それがこれなんじゃよ」
学園長は手に持った藁半紙を士郎の胸のあたりでひらつかせる。
「って、もしかして……」
「うむ。今発表されとる点数には遅刻組の点数が入っておらんのじゃよ」
学園長の額に一筋の汗が浮かぶ。
「……学園長、しっかりしてくださいよ」
「ワシも歳かのう」
『第10位、2-M! 11位、2-C!』
不毛なやり取りを交わしている間にも、順位発表は着実に進んでいく。
「ところで、遅刻組の結果はどうだったんですか?」
「見てみるかの?」
学園長から手渡された藁半紙を受け取ると、歩く速度はそのままに一番上の解答欄から調べていく。
『次は下から三番目の22位、2-P!』
残る呼ばれていないクラスは2-Aを含めて二つ。
しかし士郎はその仮初の順位などまったく気にかけず、すべての用紙に目を通していく。
そして。
『次は下から2番目、ブービー賞です。えーと、これは……、2-Kですね』
「……へぇ」
「そういう訳じゃ。ん……? 今のは?」
階段に差し掛かったところで不意に上がった声に学園長の視線の先を追うと、そこには駆けて行くネギの後ろ姿と、その後を追う遅刻組の姿。
「衛宮君。すまんが、それを持って報道部の生徒達のところへ行ってくれるかの」
「わかりました。学園長、みんなにしっかり謝ってください」
「うむ」
頷きを合図に学園長はネギたちの後を追い、士郎は機材の撤収作業に取り掛かろうとしている、腕に報道部の腕章をつけた少女に話しかける。
「ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「さっきのテスト結果なんだけどな、実は────。ああ、計算しなおしてくれるかな。────そうだな、学園長のミス、と堂々と告知してくれてかまわない。ああ、それじゃよろしく頼む」
『えー、さきほど発表したクラス順位ですが、 学園長のミスにより順位に変更があります』
訂正放送が流れる。
『再集計の結果、なんと! 第1位は大逆転で2-Aとなります!』
学園の少し先、麻帆良学園中央駅で、一際大きな歓声が響き渡った。
快活な挨拶を投げかけていく朝倉に士郎は挨拶を返す。
「衛宮先生おはよー」
「おはようございまーす」
その脇を柿崎、釘宮の二人が挨拶と共に駆け抜けていく。
そこに違和感はなく、あるのは短いながらも積み重ねられた日常の欠片。
そんな、新たなの教師の姿が学園の風景の一部となって久しいある日のHRのこと。
「えーと、みなさん聞いてください! 今日のHRは大・勉強会にしたいと思います!」
教壇に立ったネギは開口一番、高らかに宣言した。
「次の期末テストはもうすぐそこに迫ってきています。あのっそのっ…、実はうちのクラスが最下位脱出できないと大変なことになるので、みなさんがんばって猛勉強していきましょ~~!」
「ネギ先生、素晴らしいご提案ですわ」
突然のことにクラスがざわめく中、すかさず雪広が賛同の意を表す。
「はーい、提案提案」
「はい! 桜子さん」
「では!! お題は『英単語野球拳』がいーと──」
「却下」
椎名の提案に色めきたちかけた教室に、やや硬い士郎の声が通る。
「えー!? 衛宮さんも楽しく勉強出来たほうがいいと思いませんか!?」
「……君らの場合、最終的に楽しむが目的になるのが目に見えてるからな。テストも近いんだし、机に噛り付くようにやれとは言わないから、な?」
「当然ですわ。皆さんもそれでよろしくて?」
「はーい」
後を継いだ雪広の言葉に、生徒達は返事と共に思い思いの席へと移動する。
「いいと思うんだけどなぁ、英単語野球拳」
「………」
納得はしたが理解はしていない桜子のぼやきに士郎が額に皺を寄せていると、教壇の前に立っていたネギがおずおずと顔を寄せる。
「あの、なにかまずかったでしょうか?」
「まずいっていうかだな……、そうだな、野球拳っていうのはね──」
ネギに野球拳について説明する士郎。
最初は興味深そうに聞いていたネギの顔が、話が進むに従い面白いくらいに青に染まっていく。
そして最後には、
「な、なんて能天気な人達なんだ……」
体を小刻みに震わせる一人の教師の姿が、そこにはあった。
「確かに、能天気であることは否定できないな……」
一人同意しつつ、目の前の絶望に打ちひしがれるネギの態に、士郎の脳裏には違和感と時を同じくして疑問が過ぎる。
「そういえばネギ君、テストが近いのは確かだけど、いきなり勉強会だなんてどうしたの?」
肩に手を置き訊ねる士郎に、ネギは青ざめた顔はそのままに胸元のポケットから一通の封筒を取り出してみせる。
「……実は、学園長先生から僕への最終課題が出されてまして」
「最終課題?」
唐突に登場した単語に首を傾げつつ、手渡された封筒から覗く一枚を紙を取り出し、現れた書面を黙読する。
『ねぎ君へ
次の期末試験で、
二ーAが最下位脱出できたら
正式な先生にしてあげる。
麻帆良学園学園長 近衛近右衛門』
「………」
「………」
「じゃあアスナ、この意味はなーんだ?」
「う……」
「アスナー、10問連続やえ?」
「う、うるさいわねっ!」
「アハハハ」
教室に響くは笑い声。
何の憂いもない、心の底からの笑い声。
「あー、これはまた……」
「最初これを見たときは簡単そうだと思ってたんですけど……」
言いつつ、二人は笑いの淵源に恐る恐る視線を向ける。
「アスナ、これで15問連続不正解~♪」
「ど、どうしましょー」
「……どうしようか」
二人の間に沈黙が漂う。
だがそれも一瞬のこと。
「と、とにかく、これからどうするべきか考えようか!?」
「そ、そうですね!」
涙目でうろたえる子供先生と途方に暮れる新米教師だったが、止まったらそこで終わり、もう立ち上がれない、と言わんばかりに小声でいそいそと話を進める。
「まずはみんなの成績を確かめようか。ネギ君、成績表ってあるかな?」
「はい」
返事と共に開かれた名簿を二人が食い入るように見つめる。
「学年トップ級が三人もいますね」
「ああ。だけど、それ以外はちょっと厳しいかもな……。特にこの五人は」
「そうですね……」
士郎の指先の先、ネギの視線の先には五人の名前。
一言でいえば、バカ
以前の補習授業の光景が脳裏を通り過ぎる。
「……テストは確か来週の月曜日からだっけ?」
「はい……」
「ってことは、今日をいれても後三日か……」
「三日、ですか……。あ、そうだ!」
士郎と同じく表情に絶望の影を侍らせていたネギだったが、唐突に何かに気付いたように顔を上げそのままの勢いで口を開く。
「確か三日間だけとても頭のよくなる禁断の魔ほ───」
「あは、あははは、ちょ、ちょっと聞きたいところがあるからこいつ借りてくわね!」
ネギが最後まで言い終わるより先に、文字通り跳んできた明日菜があからさまな愛想笑いを浮かべながらネギの襟首をむんずと掴むと、有無を言わせず教室を飛び出していく。
「……はあ」
好奇の視線が扉に集ったのもつかの間、慣れたことなのかすぐに喧騒を取り戻す教室で士郎は静かにため息を吐き、ネギの帰りを待つ。
ネギが戻るまでには、HRが終わるまでとほぼ同じだけの時間を要した。
「あ、士郎さん」
「おかえり、ネギ君」
生徒達が帰り支度をする中教室に佇む士郎の姿を認め一瞬ネギの足が止まるが、すぐに駆け寄ると、そのまま頭を下げる。
「さっきはすいませんでした」
「まあ、済んだことは仕方ないけど、これからは気をつけてね。それで、この後はどうするのかな?」
あえて曖昧な言い回しで問いかける士郎に対し、ネギはその意を汲みはっきりと頭を横に振る。
「……魔法はさっき封印してきました。確かに魔法を使えば、最下位は脱出できると思います。でも、それじゃみなさんのためになりません。だから、今回は一教師として生徒とぶつかります」
捲られた右袖の下には、1~3のローマ数字を結ぶ三本の黒いライン。
それを目にし決意を新たにしたのか、ネギの言葉に力がこもる。
「まずは明日の授業のカリキュラムを組もうと思います!」
「そっか」
士郎は握りこぶしを作り決然と言い放つネギに目を細める。
「それじゃ俺も副担任として手伝うよ。一緒に頑張ろうか」
「はい! ありがとうございます!」
「く、ああ……」
麻帆良学園女子寮の一角、管理人室で士郎は固まった背筋をほぐすように一度伸びをしてから、目前の机に雑多に並ぶ翌日の授業の内容が記された用紙に目を落とす。
「ふう……」
教師といういまだ完全に慣れたとはいえない仕事故に感じる、疲労の色の篭った吐息混じりにネギと共同で組み上げたそれを頭の中でまとめていると、
「衛宮さん大変だよー! ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に……!」
早乙女と宮崎が叫びながら管理人室に飛び込んできた。
「行方不明?」
「そうなの! 一緒に魔法の本を探しにこのかも──!」
「早乙女、少し落ち着け。慌てる気持ちはわかるけど順を追って話してくれないと状況が掴めない」
「う、うん」
早乙女が数回深呼吸をするのを確認してから、士郎は眉を曇らせ口を開く。
「それで、行方不明ってどういうことだ?」
「今回のテストで最下位になったクラスは解散、そのうえ特に悪かった人は留年どころか小学生からやり直しとかって噂があって……」
「………」
にわかには信じがたいその内容に、しかし行方不明という単語が話の腰を折るのを躊躇わせる。
「そしたら、図書館島にあるっていう読めば頭がよくなる『魔法の本』を取りに行こうってことになってバカレンジャー達が向かってたんだけど、さっき悲鳴が聞こえたと思ったら急に携帯が切れて、それから誰とも繋がらなくなっちゃったの」
「悲鳴か……」
「え、衛宮先生、私たちどうしたら……!?」
「宮崎も落ち着け。あのメンバーに限って何かあったなんてことにはならないさ」
長瀬の泰然とした表情を頭に描きながら目尻に涙を浮かべる宮崎を慰めの言葉をかけた後で、士郎は大分落ち着いた様子の早乙女へと向き直る。
「このことは他の誰かに伝えたか?」
「ううん。とにかくこの時間に起きてそうな人のところ、って一心不乱にここに来たから」
「そうか」
それだけ答えると、士郎はいつか学園長から受け取った携帯を手に取る。
「とにかくまずは学園長に連絡しよう。それと、図書館島の地図とかってあるか?」
「あるけど、もしかして衛宮さんも図書館島に行くの!? あそこって結構危ないよ!?」
「ほ、他の先生と一緒に行ったほうが……!」
「大丈夫、心配するな」
心配そうな止めに入る二人に向けて、士郎は諭すように話しかける。
「もちろん、学園長から人を向かわせてもらうさ。でも、その人たちがもし図書館島の道を知らなかったら困るだろう? その時の備えだよ」
「そういうことなら……。って、あ、あれ? 私地図どこやったっけ?」
「ハルナ、もしかしてさっきの処に置いてきたんじゃ」
宮崎の指摘に、早乙女はあー、と頭を抱える。
「あ、でも、私の部屋にも同じものがありますー。いますぐ取ってきます」
「私も一緒にいくよ」
二人が部屋を出て行く。
扉が閉まるのを確認すると携帯を開き、ボタンを操作し電話をかける。
三度の呼び出し音の後で、目的の人物に繋がる。
「もしもし」
「もしもし、学園長ですか」
「そうじゃが。こんな時間にどうかしたかの?」
「ネギ君たちが図書館島で行方不明になったようです。これから救助へ行くので、一応応援をお願いします」
「おお、それなら心配いらんぞい。こちらで逐一状況を見届けておるからの」
「────は?」
「このか達はいま図書館島の地下におって全員無事、といえばわかるかの?」
電話越しに届くのはフォフォフォという哄笑。
もちろん、その説明だけですべて理解できるはずもなく、
「………どういうことですか?」
「そうじゃの。衛宮君は、ネギ君の最終課題については知っておるかの?」
「次のテストで最下位脱出できたら、っていうあれですか?」
「うむ。なにぶんまだ子供じゃからのう、今後も先生としてやっていけるかどうか見ておきたくての。じゃがの、ネギ君は一先生であると同時に魔法先生でもあるんじゃよ」
「──つまり、今回のことは魔法先生としての課題、ということですか。ということは、クラスは解散という噂が学園長が流したんですね?」
「そういうことじゃ」
理解が早くて助かるの、と付け加える学園長に、しかし士郎は心持ち低い声で問いただす。
「ネギ君や生徒たちに危険はないんですね?」
「モチのロンじゃ」
「しかし、さっき早乙女は悲鳴が聞こえたと」
「それはの、ワシがちょいと石像を動かしたからじゃろうて」
「……本当に、色々と大丈夫なんですか?」
「信頼してくれていいぞい」
その言葉にではなく、さすがに孫娘を危険な目にあわせることはないだろう、という推論を以って自身を納得させる。
「……わかりました。ですが、そういうことなら前もって一言あってもよかったんじゃないですか?」
「何かの拍子に衛宮君も一緒についていったら面白いと思ってのう」
「………。学園長、いまからそっちへ行ってもいいですか?」
「冗談じゃよ、冗談。ああ、それとの、ネギ君たちにはテストに向けてみっちり勉強してきてもらうからの、テストまでは戻らん予定じゃ。もちろん生活面に関しても抜かりはないぞい」
「それはわかりましたが……。生徒たちにはどう説明するつもりですか?」
「そうじゃのう……。まあ、詳しく説明する必要はないじゃろ。ネギ君たちに心配はない、とワシが言っていたと伝えておいてくれ」
「───という訳だが心配はいらない、とのだそうだ」
教室にいないネギたちの事情の大まかな説明が終わると、その所々に点在する空席と相まって教室は昨日とは違うざわめきに包まれる。
しかしそれは、どちらかといえば行方不明になっているメンバーへの心配といった類のものではなく、
「それより衛宮先生、今回のテストで2-Aが最下位脱出できなければネギ先生がクビというのは本当なのですか!?」
むしろテスト後に待ち受けるネギの進退に対してのものだった。
「……。うん、確かに本当なんだが……」
「それでは、バカレンジャーの皆さんはテストまでに帰ってこられますか!?」
「……何とかなるとは聞いてるな」
「わかりましたわ」
行方不明という状況をそれより、の一言で流す雪広を逞しいと称すべきか迷う士郎を尻目に、当人は手を顎にあて考え込む。
「……とはいえ、バカレンジャーの皆さんの点数アップは望めませんわね……。みなさん!!今回は一人十点増しでよろしく!」
「えー!?」
「ムリだってー」
「ではあなた達は、ネギ先生がクビになってしまってもよろしいんですの!?」
「それはイヤかも……」
「かわいそうやなー」
机をバンバンとたたきながら雪広が奮う熱弁に、歯抜けの教室のそれでもあちこちから賛同の答えが上がる。
「ではみなさん!テストまでちゃんと勉強して最下位脱出ですわよ。そのへんのいつも普段マジメにやってない方々も!!」
「げ……」
指差された先から届くうめき声にも耳を貸さず、委員長はテキパキと有無を言わせぬ物言いで指示を出していく。
「もちろん、ただ単純に勉強しろ、とは言いませんわ。私はこれからテストまで講師役をやりますわ。超さんハカセさん朝倉さんちづるさんも手伝っていただけますか?」
「わかたアルヨ」
「仕方ないなぁ」
「それではみなさん、何としてでも次のテストで最下位脱出しますわよ!」
雪広が力強く宣言すると同時に校舎に朝のHRの終了を告げる鐘が鳴り響く。
教壇で立ち尽くしていた教師がようやく口を開く。
「あー、みんな頑張ってくれ。それと刹那、少し話があるからこの後廊下に来てくれるか?」
「はい、わかりました」
それを聞いてから士郎は教室を出、向かいの壁に背を預ける。
待つほどの時間もかからず、さっそく雪広が鼻息も荒く音頭を取る気配が覗く2-Aの教室から刹那がやってくる。
「悪いな」
「いえ。それで話というのは」
「さっきの話だけどな。実はネギ君の課題の一環ということで学園長が一枚噛んでる。だから実際は遭難した訳じゃないし、全員ぴんぴんしてるそうだ」
「そうですか」
刹那は、初対面の相手ではわからないほど小さく安堵の息を吐く。
それを確かに見て取り、士郎は言葉を継ぐ。
「このかちゃんが無事で、安心したか?」
肩にかかる黒髪が小さく揺れる。
「それは──」
咄嗟に誤魔化すように動きかけた少女の口が、向けられた真摯な目に自らその動きを止める。
瞬き二回ほどの時間の後。
「……はい」
か細い声で、それでも本心を告げた刹那に士郎も自然と満足げな頷きを見せる。
「話はそれだけだ。時間を取らせてすまなかったな」
「あの」
「ん?」
刹那に呼び止められ、士郎は返しかけた踵を向き直す。
「何も、訊かないんですか?」
「意外か?」
「はい。士郎さんの性格ならすぐに尋ねてくるものと思っていました」
士郎は刹那の率直な意見に苦笑を漏らしながら話を紡ぐ。
「確かに訊きたくはあるけど、いまここで無理に訊くこともないと思ったんだ」
「それはどうしてですか?」
「だって刹那は、このかちゃんのこと好きだろ」
「なっ───」
見る間に頬が桃色に染まる様子に士郎はたまらず笑みをこぼす。
「まあ、話したくなったら話してくれればいい。俺としては今回はそのことが再確認できただけで充分」
それだけ言うと、士郎は廊下を歩いていく。
きっと士郎は笑っているのだろう、とその背中を見つめながら思う刹那を残して。
学園長の予告通り、遅刻しながらもバカレンジャーたちが無事テストに間に合い、無事テストを受ける。
流れるように日は進み、そしてテスト結果発表の当日。
学園長室では、机を挟んで士郎と学園長が向き合っていた。
「今回は色々と迷惑をかけてすまんかったのう」
「そう思っているなら、次からは事前に一言もらえますか」
「フォッフォッフォッ」
ただ笑うだけの好々爺然とした老人に、士郎はいつも通り諦観の嘆息を一つ。
「……いいです。それより、今日は何のようです?」
「大した事ではないんだがのう。衛宮君に先生としてのネギ君についてどう思うかを聞きたいと思っての」
「それは、今後のネギ君の進退に関わりますか?」
「いんや。これは単にワシの興味の問題じゃ」
その言質を得てから、士郎はいままでの出来事を思い返しながら言葉を選ぶ。
「そうですね……。授業はしっかり出来ていますし、生徒からも慕われています。魔法については……、まだ不安なところもありますが、魔法に頼ってばかりではいけない、ということも自覚したようですし、多分大丈夫でしょう」
「そうかそうか」
『──では、第2学年のクラス成績を良い順に発表しましょう!』
士郎の評を噛み締めるように学園長が二度、三度とゆっくり頷いていると、クラス成績発表を告げる微かなノイズ混じりの放送が学園長室に届く。
「む、いかんいかん。発表会は学生達が勝手に始めてしまうんじゃった」
学園長は引き出しから藁半紙を取り出すと慌てて部屋を飛び出していく。
呼び出した本人がいない以上もう用のない部屋に留まるわけもなく、士郎も小走りでその横に並ぶ。
「いきなりどうしたんですか?」
「実はのう、遅刻組の採点はワシがやっとってのう。それがこれなんじゃよ」
学園長は手に持った藁半紙を士郎の胸のあたりでひらつかせる。
「って、もしかして……」
「うむ。今発表されとる点数には遅刻組の点数が入っておらんのじゃよ」
学園長の額に一筋の汗が浮かぶ。
「……学園長、しっかりしてくださいよ」
「ワシも歳かのう」
『第10位、2-M! 11位、2-C!』
不毛なやり取りを交わしている間にも、順位発表は着実に進んでいく。
「ところで、遅刻組の結果はどうだったんですか?」
「見てみるかの?」
学園長から手渡された藁半紙を受け取ると、歩く速度はそのままに一番上の解答欄から調べていく。
『次は下から三番目の22位、2-P!』
残る呼ばれていないクラスは2-Aを含めて二つ。
しかし士郎はその仮初の順位などまったく気にかけず、すべての用紙に目を通していく。
そして。
『次は下から2番目、ブービー賞です。えーと、これは……、2-Kですね』
「……へぇ」
「そういう訳じゃ。ん……? 今のは?」
階段に差し掛かったところで不意に上がった声に学園長の視線の先を追うと、そこには駆けて行くネギの後ろ姿と、その後を追う遅刻組の姿。
「衛宮君。すまんが、それを持って報道部の生徒達のところへ行ってくれるかの」
「わかりました。学園長、みんなにしっかり謝ってください」
「うむ」
頷きを合図に学園長はネギたちの後を追い、士郎は機材の撤収作業に取り掛かろうとしている、腕に報道部の腕章をつけた少女に話しかける。
「ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「さっきのテスト結果なんだけどな、実は────。ああ、計算しなおしてくれるかな。────そうだな、学園長のミス、と堂々と告知してくれてかまわない。ああ、それじゃよろしく頼む」
『えー、さきほど発表したクラス順位ですが、
訂正放送が流れる。
『再集計の結果、なんと! 第1位は大逆転で2-Aとなります!』
学園の少し先、麻帆良学園中央駅で、一際大きな歓声が響き渡った。
PR
Comment
無題
更新おつかれさまでした。
相変わらず文章も纏まっていて読みやすいですね。
ネギ君の最終試験、図書館島に助けに行くのではなく最後まで別の立ち位置に士郎がいたのが新鮮でした。
次回の更新もがんばってください。
相変わらず文章も纏まっていて読みやすいですね。
ネギ君の最終試験、図書館島に助けに行くのではなく最後まで別の立ち位置に士郎がいたのが新鮮でした。
次回の更新もがんばってください。
無題
1~11話まで一気に読ませていただきました。
ネギまとfateのクロスを読むのは初めてだったので
初めのうちはものは試しというカンジでしたが
戦闘パートも日常パートも楽しく読ませていただきました
これからもがんばってください
ネギまとfateのクロスを読むのは初めてだったので
初めのうちはものは試しというカンジでしたが
戦闘パートも日常パートも楽しく読ませていただきました
これからもがんばってください
この記事にコメントする
Trackback
この記事にトラックバックする: |