ネギまとFateのクロスオーバー小説を書いていこうと思ってます。
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「はぁ……」
「あら、まだ気にしているの?」
「……ええ。結局最後までただ見てるだけでしたし」
士郎は再びはぁ、と嘆息する。
昼休み。
授業から解放された生徒達が一様に明るい表情を浮かべる中一人沈み込む士郎を、隣を歩くしずな先生は苦笑しつつ励ます。
「初めての授業、それも相手が女子中学生では仕方ないわ」
それにあのクラスは元気な子が多いですからね、と言い添えるしずな先生の言葉に、士郎はさきほどの授業を思い返す。
あの後、当然のごとく質問攻めにあい、それも終わりやっと開始した授業でも再び明日菜と雪広の掴み合いの喧嘩が起こり、結局何も出来ずに終わってしまったのだ。
「それに、生徒たちには受け入れられたみたいだし、よかったんではなくて?」
「それは、そうですね」
いまだ表情は晴れないながらも士郎は首肯する。
──女子寮に男の管理人。
──10歳の子供の教師。
さすがに拒否反応があるかと考えていたが、思いのほか、というよりどちらも好意的に受け入れられていた。
「士郎さんー」
しかしネギの魔法のことといい、あのクラスは少し変わってるんだろうか、と士郎が首を傾げていると、背後から呼び止められる。
士郎が足を止め振り返ると、木乃香が手を振りながら廊下をパタパタと走り寄って来ていた。
「ずいぶんと懐かれているようね」
同じく振り返ったしずな先生はその姿を見て優しく微笑んだ後、
「では私はここで失礼しますね。──そうそう。生徒の前でいつまでもそんな顔をしていてはだめよ、衛宮先生」
「あ、はい。色々とありがとうございました」
それだけ言い残し、踵を返し廊下を右へと折れていくしずな先生と入れ替わりに、木乃香が士郎に追いつく。
「何の話してたん?」
「さっきの授業の話をちょっとね」
「アハハ、気にしたらあかんえー」
暗い表情と引き換えに苦笑いを浮かべる士郎に、木乃香は明るい調子で話しかける。
「うちのクラスはみんな元気いっぱいやからなー」
元気というより少し変わってるんじゃないかと思う士郎だったが、それを表には出さず、代わりに木乃香に訊ねる。
「ところで、俺に何か用かな?」
「あ、そやそや。士郎さん、放課後になったらうちの教室に来てくれへん?」
「行くのはかまわないけど、どうして?」
「それはなー、」
木乃香はそこで一度言葉を区切り、
「秘密や」
そう言って、明るく微笑む。
「……わかった。よくわからないけど、とにかく放課後に2-Aの教室にいけばいいのかな?」
「うん、そうやえー」
木乃香が頷くと、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
「そろそろ次の授業の時間か。遅刻しないようにね」
「はーい」
約束やでー、と手を振りながら再び廊下を駆けて行く木乃香に手を振り返す士郎。
その表情は、自然と晴れていた。
放課後、約束通り2-Aの教室に向かっていると、先を歩くネギ、それと何事かブツブツと呟いている明日菜が士郎の目に入った。
「やあネギく──」
「あ、士郎さん!」
士郎が声をかけるや否や、ネギは振り返り、声の元へと駆け寄り、
「ど、ど、どうしましょー。アスナさんに魔法がばれちゃいましたぁ…」
小声ながらも、そう、はっきりと士郎に伝えた。
「……それはまたどうして?」
明日菜がいまだブツブツと呟いているのを確認し、士郎は小声で訊ねる。
「し、仕方無かったんです。宮崎さんを助けるために魔法を使ったところをアスナさんに見られちゃって……」
ただでさえ小さなその体をさらに縮こめるネギに、士郎は微かな自嘲と共に、それなら仕方ないかな、と漏らす。
「それで、明日菜は魔法を目撃して、何か言ってた?」
「ええと。ばらさない代わりにタカミチとの仲を取り持つようにって言われました」
「……記憶操作の魔法とかは?」
「やったんですけど、失敗しちゃって……」
こちらにも記憶を弄る魔術があることを頭の片隅に刻み込みつつ、どうしたものかと思考をめぐらし、ネギはその様子を不安に見つめる。
とはいえ、出てくる結論は自ずと限られており。
士郎はふう、と胸に溜まった息を吐き出す。
「俺は明日菜に協力すべきだと思うけど、ネギ君はどう?」
「あ、はい、僕もそうするつもりです」
「そっか。何か手伝うことはある?」
「……いえ。手伝ってもらっちゃうと士郎さんのこともばれちゃうかもしれないので」
目の前の、この状況でも他人に対して気を遣う10歳の少年に感心し、士郎はわかった、と頷いた後、辞色を改めて口を開く。
「それと、言うまでもないことだけど魔法がばれないよう気をつけること。さっきの授業の時みたいなことがないようにね」
「はい、気をつけます……」
「うん。……さて、それじゃあ、」
シュンと落ち込むネギの肩に士郎は慰めるように手を置き、次に、落としていた視線を上げ、
「そろそろあれを何とかしようか」
先を歩く一人の少女に向けた。
その明日菜、いまだに士郎に気付いた様子もなく、腕を組んで何事か呟いている歩いている姿は端から見てあまり気持ちがいいものではない。
「あー、明日菜?」
「ひゃああああ!?」
幸い周囲には誰もいないが、それでも何とかすべく士郎が肩を叩いて名前を呼ぶと、耳を突き刺す叫び声と共に明日菜は飛び退き、向き直る。
そしてその目が己のクラスの副担任を捉えると一転、食って掛かる。
「ちょ、ちょっと、驚かさないでよ!」
「驚かすもなにも、さっきからずっといたぞ」
だが、ネギと頷きあう士郎の言い分にさきほどまでの自分の姿を認識してか、明日菜は一瞬押し黙る。
が、それでもまだ不満なようで、口を尖らせる。
「大体、なんでこんな時間にこんなのところにいるのよ」
「昼休みにこのかちゃんに放課後になったら教室に来てくれって言われてな。どうしてかは教えてもらえなかったけどな」
「このかが? ……あ、そうか。そういえばあたし買い出しに行ってたんだっけ」
「買い出しって何の買い出しですか?」
いま気付いたと言わんばかりに自身が提げていたビニール袋を持ち上げる明日菜にネギが尋ねるが、
「中に入ればわかるわよ」
と言って立ち止まる明日菜の先には2-Aの教室。
さきほどの木乃香と同じ、否、かすかにからかいが混ざった表情を浮かべる明日菜に促され、ネギが扉に手をかけ、開く。
同時に、
「ようこそ!!ネギ先生ーッ、衛宮先生ーッ!!!」
パーン、というクラッカーの音と目の前の生徒の声が廊下にまで響き。
その向こう、教室の中にはケーキや肉まん、ジュース等々が所狭しと並べられていた。
「こういうこと」
明日菜の声を隣に聞きながら士郎が教室を見渡すと、木乃香が小さく舌を出してごめんなー、と手を合わしていた。
なるほど、と士郎は状況を飲み込む。
歓迎会。
つまりは、そういうことなのだろう。
「ほら入って入って、主役はまんなか」
クラッカーを置いた生徒たちが士郎とネギの腕を取り、背中を押し、中へと引っ張っていく。
二人が中心の椅子に腰を下ろすと、どこからともなく紙コップを手渡され、ジュースを注くと、その場の全員が紙コップを手に持ち、
「それじゃ、かんぱーい!」
かくして、2-Aの生徒たちによる、士郎とネギの歓迎会が始まった。
「ふう……」
宴もたけなわ。
クラスのエネルギーに圧倒された士郎は、一息入れるべく中心から離れ、窓辺に背中を預ける。
「はい、ネギ君」
「あ、ありがとうございます」
教室の中心にはネギ。
生徒たちの歓迎ムードにさきほどまでとは打って変わってその顔には安堵の笑顔を浮かべている。
「あのー…、ネギせんせい……」
そんなネギの元に、前髪を下げた一人の少女が歩み寄る。
「え……、あ、27番の図書委員宮崎のどかさん」
「あのー、さっきはそのー、危ないところを助けていただいて、そのー、あのー……」
宮崎、という苗字に士郎はさきほどの廊下での話を思い返す。
おそらくネギに助けられたのだろうその少女は、僅かに伺える頬を朱に染めながらおずおずと両手を突き出す。
「これはお礼ですー。図書券……」
「えっ!?」
「本屋がもう先生にアタックしてるぞー」
誰かが上げた声にクラス中の視線が集まり、同時にあちこちから歓声があがる。
「違いますー、それに私本屋じゃないですー」
宮崎が慌てて弁解をし、今度はクラス中から笑い声。
「どうですか士郎さん」
その一連の流れを微笑ましく眺める士郎に、刹那が団子を手に声をかけた。
「ん、もらうよ」
受け取ったそれを、二人は揃って口に運ぶ。
教室の真ん中では雪広がいつ用意したのかネギの銅像を披露し、それに明日菜がつっかかり、再びの取っ組み合いが始まっている。
「全く、面白いクラスだな……」
「面白い、ですか」
「というかちょっと変わってる、かな。明日菜たちはああだし、ずいぶん腕が立ちそうな生徒はいるしな」
士郎は苦笑を浮かべたまま、自分の言葉を確かめるように教室内を漂わせる。
が、その視線がある一点、虚空で止まる。
「どうかしましたか?」
「………」
問いかけにも口を閉ざしたまま微かに首を捻る士郎に、刹那もその視線の先に目を向けるが、やはりそこには目に付くものはない。
「士郎さん?」
「ああ、いや、気にしないでくれ」
煮え切らない返事に訝しむ刹那を見て、士郎は咳払いをして軌道修正を図る。
「まあ、ともかく、だ。少し変わってるけど、」
一度区切り、耳を澄ませる。
教室には、アハハ、と高らかに笑う声。
屈託のない笑顔。
「いいクラスだな」
目を細める士郎に刹那は返事はせず、しかし同じくその光景を見つめて、続きを待つ。
「俺みたいな頼りないのが教師ですまないけど、これからよろしくな」
「いえ。こちらこそよろしくお願いします」
微かにだが柔らかい雰囲気を纏った刹那と改めてそんな言葉を交わしていると、
「……士郎さん、お茶飲まへん?」
ペットボトルを持った木乃香がこの少女には似つかわしくない、僅かに緊張した面持ちで士郎の元へとやってきた。
「ああ、ありがとこのかちゃん」
「ううん、気にせんでええよ」
木乃香はコップにお茶を注ぐが、その視線はチラチラと士郎の隣へと向けられる。
一方その視線の先にいる刹那も向けられたそれに気付かぬはずがなく、こちらは気まずげな雰囲気を漂せる。
だがそれも長くは続かず、
「失礼します」
刹那は頭を下げるとその場から逃げるように離れていく。
「あ……、せっちゃん」
引きとめる手はしかし、伸ばされることはなく。
そうして残された木乃香に、士郎は声をかける。
「木乃香ちゃん」
「え?」
「刹那と、何かあったの?」
「あ、ううん。なんでもないえ」
努めて笑顔で答えようとする木乃香だが、その笑顔はぎこちなく、淋しさは隠しきれていない。
そんな木乃香を放ってはおけず。
「このかちゃん、いまは言いたくないみたいだから何も聞かない。だけどいつか話してくれないかな? このかちゃんにはそんな顔はしてほしくない」
目をまっすぐ見て紡がれた士郎の言葉に、木乃香は頬を微かに赤くし、心底、という訳にはさすがにいかないのだろうが、それでもさきほどよりは自然な笑みを零す。
「うん、わかったえ。ところで士郎さん、いつのまにせっちゃんと仲良くなったん?」
「この学園に来るまでに色々と世話になったからだけど、仲が良いっていうほどじゃ──」
「ううん、そんなことあらへんよ」
この少女には珍しい明確な否定。
「だって、せっちゃんがあんな顔してるの、こっちに来てからはウチほとんど見たことないもん」
そしてそこには、微かな羨望が織り込まれていた。
「……そっか。このかちゃんは刹那のことよく見てるんだな。大丈夫。このかちゃんの気持ちはいつか刹那にも届くさ」
「……ホンマに?」
「少なくとも俺はそう思うよ」
士郎は、自身の胸元にある小さな頭に手をのせる。
「……士郎さん、ありがとな」
木乃香は士郎の手の下で今度こそ、この少女に似合う笑みを浮かべる。
それを見届けてから、載せた手はそのままに士郎は顔を上げる。
と、数人の生徒達が外に出て行くのが目に付き、同時に違和感を覚える。
が、すぐにその理由を悟り、士郎は近くにいた生徒に訊ねる。
「すまないが、ネギ君がどこにいったか知らないかな?」
「あら、衛宮先生。ネギ先生でしたら、さきほど明日菜さんを追って教室を出て行きましたよ」
「わかった、ありがとう、えーと」
「那波ですわ」
士郎は穏やかに微笑む那波に謝意を伝えつつも、ネギと明日菜という組み合わせに内心穏やかではいられず、
「アスナたちを追いかけるん? それならうちも行くえ」
同じく話を聞いていた木乃香と共にドアへと向かう。
教室を抜け廊下に出るが、二人の姿は見当たらない。
「んー、どこいったんやろ?」
「喧嘩でもしてなきゃいいんだけどな……」
士郎が二人の間柄から考え得る危惧を口にしていると、階段のほうから雪広の声が聞こえてきた。
「こ、ここここんな小さな子を連れ出してあなたは一体何をやってるんですかーーっ!!」
「ち、ちがーー!」
続いて明日菜の声。
またあの二人か、と若干呆れつつも、ともかく声のしたほうへと足を踏み出しかけ、
「記憶を失え~~~~っ!!」
そして、ネギの声に士郎は深く、深く嘆息した。
「どないしたん?」
「……いや、これからやっていけるかなぁってちょっと不安になってね」
「? 何やよーわからんけど、士郎さんなら大丈夫やと思うえ?」
「ありがと、このかちゃん……」
肩を落とす士郎は、ほぼ一回り近く歳の違う少女に励まされるのだった。
「……はあ、ほんとにひどい目にあったー。……全部あんたのせいよ!」
「今のは自業自得な気もしますけど……」
「なんですってー」
ゴタゴタがあった歓迎会も終わり、寮への帰路の道半ば。
ネギと明日菜のやり取りを、士郎と木乃香は後ろに従いながら耳にする。
「さっき何があったかは知らないけど、少しは改善したのかな?」
いまだ厳しいことも口にする明日菜だが、それはさきほどまでのような険のある口調ではなくなっていた。
「そうやなー」
木乃香もそれを感じているのだろう、二人を見守る目は暖かい。
「このままがんばれば…、あんたもいつかはいい先生になれるかもね」
「あ……、うん! ありがと」
照れくさいのかフン、と顔を背ける明日菜を、木乃香はクスクスと小さく笑った後、足を止める。
「なあ、士郎さん」
「ん?」
月明かりが、木乃香の笑顔を明るく照らす。
「これから、よろしくなー」
「……ええ。結局最後までただ見てるだけでしたし」
士郎は再びはぁ、と嘆息する。
昼休み。
授業から解放された生徒達が一様に明るい表情を浮かべる中一人沈み込む士郎を、隣を歩くしずな先生は苦笑しつつ励ます。
「初めての授業、それも相手が女子中学生では仕方ないわ」
それにあのクラスは元気な子が多いですからね、と言い添えるしずな先生の言葉に、士郎はさきほどの授業を思い返す。
あの後、当然のごとく質問攻めにあい、それも終わりやっと開始した授業でも再び明日菜と雪広の掴み合いの喧嘩が起こり、結局何も出来ずに終わってしまったのだ。
「それに、生徒たちには受け入れられたみたいだし、よかったんではなくて?」
「それは、そうですね」
いまだ表情は晴れないながらも士郎は首肯する。
──女子寮に男の管理人。
──10歳の子供の教師。
さすがに拒否反応があるかと考えていたが、思いのほか、というよりどちらも好意的に受け入れられていた。
「士郎さんー」
しかしネギの魔法のことといい、あのクラスは少し変わってるんだろうか、と士郎が首を傾げていると、背後から呼び止められる。
士郎が足を止め振り返ると、木乃香が手を振りながら廊下をパタパタと走り寄って来ていた。
「ずいぶんと懐かれているようね」
同じく振り返ったしずな先生はその姿を見て優しく微笑んだ後、
「では私はここで失礼しますね。──そうそう。生徒の前でいつまでもそんな顔をしていてはだめよ、衛宮先生」
「あ、はい。色々とありがとうございました」
それだけ言い残し、踵を返し廊下を右へと折れていくしずな先生と入れ替わりに、木乃香が士郎に追いつく。
「何の話してたん?」
「さっきの授業の話をちょっとね」
「アハハ、気にしたらあかんえー」
暗い表情と引き換えに苦笑いを浮かべる士郎に、木乃香は明るい調子で話しかける。
「うちのクラスはみんな元気いっぱいやからなー」
元気というより少し変わってるんじゃないかと思う士郎だったが、それを表には出さず、代わりに木乃香に訊ねる。
「ところで、俺に何か用かな?」
「あ、そやそや。士郎さん、放課後になったらうちの教室に来てくれへん?」
「行くのはかまわないけど、どうして?」
「それはなー、」
木乃香はそこで一度言葉を区切り、
「秘密や」
そう言って、明るく微笑む。
「……わかった。よくわからないけど、とにかく放課後に2-Aの教室にいけばいいのかな?」
「うん、そうやえー」
木乃香が頷くと、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
「そろそろ次の授業の時間か。遅刻しないようにね」
「はーい」
約束やでー、と手を振りながら再び廊下を駆けて行く木乃香に手を振り返す士郎。
その表情は、自然と晴れていた。
放課後、約束通り2-Aの教室に向かっていると、先を歩くネギ、それと何事かブツブツと呟いている明日菜が士郎の目に入った。
「やあネギく──」
「あ、士郎さん!」
士郎が声をかけるや否や、ネギは振り返り、声の元へと駆け寄り、
「ど、ど、どうしましょー。アスナさんに魔法がばれちゃいましたぁ…」
小声ながらも、そう、はっきりと士郎に伝えた。
「……それはまたどうして?」
明日菜がいまだブツブツと呟いているのを確認し、士郎は小声で訊ねる。
「し、仕方無かったんです。宮崎さんを助けるために魔法を使ったところをアスナさんに見られちゃって……」
ただでさえ小さなその体をさらに縮こめるネギに、士郎は微かな自嘲と共に、それなら仕方ないかな、と漏らす。
「それで、明日菜は魔法を目撃して、何か言ってた?」
「ええと。ばらさない代わりにタカミチとの仲を取り持つようにって言われました」
「……記憶操作の魔法とかは?」
「やったんですけど、失敗しちゃって……」
こちらにも記憶を弄る魔術があることを頭の片隅に刻み込みつつ、どうしたものかと思考をめぐらし、ネギはその様子を不安に見つめる。
とはいえ、出てくる結論は自ずと限られており。
士郎はふう、と胸に溜まった息を吐き出す。
「俺は明日菜に協力すべきだと思うけど、ネギ君はどう?」
「あ、はい、僕もそうするつもりです」
「そっか。何か手伝うことはある?」
「……いえ。手伝ってもらっちゃうと士郎さんのこともばれちゃうかもしれないので」
目の前の、この状況でも他人に対して気を遣う10歳の少年に感心し、士郎はわかった、と頷いた後、辞色を改めて口を開く。
「それと、言うまでもないことだけど魔法がばれないよう気をつけること。さっきの授業の時みたいなことがないようにね」
「はい、気をつけます……」
「うん。……さて、それじゃあ、」
シュンと落ち込むネギの肩に士郎は慰めるように手を置き、次に、落としていた視線を上げ、
「そろそろあれを何とかしようか」
先を歩く一人の少女に向けた。
その明日菜、いまだに士郎に気付いた様子もなく、腕を組んで何事か呟いている歩いている姿は端から見てあまり気持ちがいいものではない。
「あー、明日菜?」
「ひゃああああ!?」
幸い周囲には誰もいないが、それでも何とかすべく士郎が肩を叩いて名前を呼ぶと、耳を突き刺す叫び声と共に明日菜は飛び退き、向き直る。
そしてその目が己のクラスの副担任を捉えると一転、食って掛かる。
「ちょ、ちょっと、驚かさないでよ!」
「驚かすもなにも、さっきからずっといたぞ」
だが、ネギと頷きあう士郎の言い分にさきほどまでの自分の姿を認識してか、明日菜は一瞬押し黙る。
が、それでもまだ不満なようで、口を尖らせる。
「大体、なんでこんな時間にこんなのところにいるのよ」
「昼休みにこのかちゃんに放課後になったら教室に来てくれって言われてな。どうしてかは教えてもらえなかったけどな」
「このかが? ……あ、そうか。そういえばあたし買い出しに行ってたんだっけ」
「買い出しって何の買い出しですか?」
いま気付いたと言わんばかりに自身が提げていたビニール袋を持ち上げる明日菜にネギが尋ねるが、
「中に入ればわかるわよ」
と言って立ち止まる明日菜の先には2-Aの教室。
さきほどの木乃香と同じ、否、かすかにからかいが混ざった表情を浮かべる明日菜に促され、ネギが扉に手をかけ、開く。
同時に、
「ようこそ!!ネギ先生ーッ、衛宮先生ーッ!!!」
パーン、というクラッカーの音と目の前の生徒の声が廊下にまで響き。
その向こう、教室の中にはケーキや肉まん、ジュース等々が所狭しと並べられていた。
「こういうこと」
明日菜の声を隣に聞きながら士郎が教室を見渡すと、木乃香が小さく舌を出してごめんなー、と手を合わしていた。
なるほど、と士郎は状況を飲み込む。
歓迎会。
つまりは、そういうことなのだろう。
「ほら入って入って、主役はまんなか」
クラッカーを置いた生徒たちが士郎とネギの腕を取り、背中を押し、中へと引っ張っていく。
二人が中心の椅子に腰を下ろすと、どこからともなく紙コップを手渡され、ジュースを注くと、その場の全員が紙コップを手に持ち、
「それじゃ、かんぱーい!」
かくして、2-Aの生徒たちによる、士郎とネギの歓迎会が始まった。
「ふう……」
宴もたけなわ。
クラスのエネルギーに圧倒された士郎は、一息入れるべく中心から離れ、窓辺に背中を預ける。
「はい、ネギ君」
「あ、ありがとうございます」
教室の中心にはネギ。
生徒たちの歓迎ムードにさきほどまでとは打って変わってその顔には安堵の笑顔を浮かべている。
「あのー…、ネギせんせい……」
そんなネギの元に、前髪を下げた一人の少女が歩み寄る。
「え……、あ、27番の図書委員宮崎のどかさん」
「あのー、さっきはそのー、危ないところを助けていただいて、そのー、あのー……」
宮崎、という苗字に士郎はさきほどの廊下での話を思い返す。
おそらくネギに助けられたのだろうその少女は、僅かに伺える頬を朱に染めながらおずおずと両手を突き出す。
「これはお礼ですー。図書券……」
「えっ!?」
「本屋がもう先生にアタックしてるぞー」
誰かが上げた声にクラス中の視線が集まり、同時にあちこちから歓声があがる。
「違いますー、それに私本屋じゃないですー」
宮崎が慌てて弁解をし、今度はクラス中から笑い声。
「どうですか士郎さん」
その一連の流れを微笑ましく眺める士郎に、刹那が団子を手に声をかけた。
「ん、もらうよ」
受け取ったそれを、二人は揃って口に運ぶ。
教室の真ん中では雪広がいつ用意したのかネギの銅像を披露し、それに明日菜がつっかかり、再びの取っ組み合いが始まっている。
「全く、面白いクラスだな……」
「面白い、ですか」
「というかちょっと変わってる、かな。明日菜たちはああだし、ずいぶん腕が立ちそうな生徒はいるしな」
士郎は苦笑を浮かべたまま、自分の言葉を確かめるように教室内を漂わせる。
が、その視線がある一点、虚空で止まる。
「どうかしましたか?」
「………」
問いかけにも口を閉ざしたまま微かに首を捻る士郎に、刹那もその視線の先に目を向けるが、やはりそこには目に付くものはない。
「士郎さん?」
「ああ、いや、気にしないでくれ」
煮え切らない返事に訝しむ刹那を見て、士郎は咳払いをして軌道修正を図る。
「まあ、ともかく、だ。少し変わってるけど、」
一度区切り、耳を澄ませる。
教室には、アハハ、と高らかに笑う声。
屈託のない笑顔。
「いいクラスだな」
目を細める士郎に刹那は返事はせず、しかし同じくその光景を見つめて、続きを待つ。
「俺みたいな頼りないのが教師ですまないけど、これからよろしくな」
「いえ。こちらこそよろしくお願いします」
微かにだが柔らかい雰囲気を纏った刹那と改めてそんな言葉を交わしていると、
「……士郎さん、お茶飲まへん?」
ペットボトルを持った木乃香がこの少女には似つかわしくない、僅かに緊張した面持ちで士郎の元へとやってきた。
「ああ、ありがとこのかちゃん」
「ううん、気にせんでええよ」
木乃香はコップにお茶を注ぐが、その視線はチラチラと士郎の隣へと向けられる。
一方その視線の先にいる刹那も向けられたそれに気付かぬはずがなく、こちらは気まずげな雰囲気を漂せる。
だがそれも長くは続かず、
「失礼します」
刹那は頭を下げるとその場から逃げるように離れていく。
「あ……、せっちゃん」
引きとめる手はしかし、伸ばされることはなく。
そうして残された木乃香に、士郎は声をかける。
「木乃香ちゃん」
「え?」
「刹那と、何かあったの?」
「あ、ううん。なんでもないえ」
努めて笑顔で答えようとする木乃香だが、その笑顔はぎこちなく、淋しさは隠しきれていない。
そんな木乃香を放ってはおけず。
「このかちゃん、いまは言いたくないみたいだから何も聞かない。だけどいつか話してくれないかな? このかちゃんにはそんな顔はしてほしくない」
目をまっすぐ見て紡がれた士郎の言葉に、木乃香は頬を微かに赤くし、心底、という訳にはさすがにいかないのだろうが、それでもさきほどよりは自然な笑みを零す。
「うん、わかったえ。ところで士郎さん、いつのまにせっちゃんと仲良くなったん?」
「この学園に来るまでに色々と世話になったからだけど、仲が良いっていうほどじゃ──」
「ううん、そんなことあらへんよ」
この少女には珍しい明確な否定。
「だって、せっちゃんがあんな顔してるの、こっちに来てからはウチほとんど見たことないもん」
そしてそこには、微かな羨望が織り込まれていた。
「……そっか。このかちゃんは刹那のことよく見てるんだな。大丈夫。このかちゃんの気持ちはいつか刹那にも届くさ」
「……ホンマに?」
「少なくとも俺はそう思うよ」
士郎は、自身の胸元にある小さな頭に手をのせる。
「……士郎さん、ありがとな」
木乃香は士郎の手の下で今度こそ、この少女に似合う笑みを浮かべる。
それを見届けてから、載せた手はそのままに士郎は顔を上げる。
と、数人の生徒達が外に出て行くのが目に付き、同時に違和感を覚える。
が、すぐにその理由を悟り、士郎は近くにいた生徒に訊ねる。
「すまないが、ネギ君がどこにいったか知らないかな?」
「あら、衛宮先生。ネギ先生でしたら、さきほど明日菜さんを追って教室を出て行きましたよ」
「わかった、ありがとう、えーと」
「那波ですわ」
士郎は穏やかに微笑む那波に謝意を伝えつつも、ネギと明日菜という組み合わせに内心穏やかではいられず、
「アスナたちを追いかけるん? それならうちも行くえ」
同じく話を聞いていた木乃香と共にドアへと向かう。
教室を抜け廊下に出るが、二人の姿は見当たらない。
「んー、どこいったんやろ?」
「喧嘩でもしてなきゃいいんだけどな……」
士郎が二人の間柄から考え得る危惧を口にしていると、階段のほうから雪広の声が聞こえてきた。
「こ、ここここんな小さな子を連れ出してあなたは一体何をやってるんですかーーっ!!」
「ち、ちがーー!」
続いて明日菜の声。
またあの二人か、と若干呆れつつも、ともかく声のしたほうへと足を踏み出しかけ、
「記憶を失え~~~~っ!!」
そして、ネギの声に士郎は深く、深く嘆息した。
「どないしたん?」
「……いや、これからやっていけるかなぁってちょっと不安になってね」
「? 何やよーわからんけど、士郎さんなら大丈夫やと思うえ?」
「ありがと、このかちゃん……」
肩を落とす士郎は、ほぼ一回り近く歳の違う少女に励まされるのだった。
「……はあ、ほんとにひどい目にあったー。……全部あんたのせいよ!」
「今のは自業自得な気もしますけど……」
「なんですってー」
ゴタゴタがあった歓迎会も終わり、寮への帰路の道半ば。
ネギと明日菜のやり取りを、士郎と木乃香は後ろに従いながら耳にする。
「さっき何があったかは知らないけど、少しは改善したのかな?」
いまだ厳しいことも口にする明日菜だが、それはさきほどまでのような険のある口調ではなくなっていた。
「そうやなー」
木乃香もそれを感じているのだろう、二人を見守る目は暖かい。
「このままがんばれば…、あんたもいつかはいい先生になれるかもね」
「あ……、うん! ありがと」
照れくさいのかフン、と顔を背ける明日菜を、木乃香はクスクスと小さく笑った後、足を止める。
「なあ、士郎さん」
「ん?」
月明かりが、木乃香の笑顔を明るく照らす。
「これから、よろしくなー」
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Comment
この瞬間を待っていたんだ!
あ~、待ちわびた更新。
この小説大変楽しみにしているんですよ。今日見れてまず感動しました。
内容もやはりおもしろい。キャラの個性がよく出ています。
忙しい中、小説の更新は大変でしょうが、頑張ってください。楽しみにしています。
この小説大変楽しみにしているんですよ。今日見れてまず感動しました。
内容もやはりおもしろい。キャラの個性がよく出ています。
忙しい中、小説の更新は大変でしょうが、頑張ってください。楽しみにしています。
無題
ネギま原作第一話にして刹那、木乃香幼馴染コンビ両方にフラグを立ててるなんて・・・・・・・・・士郎・・・・・・・・恐ろしい子w
何やら士郎はさよを見つけたみたいですがFate×ネギまで士郎が見つけるのって新鮮・・・・・と言うか個人的には初めて見る展開なので大変期待しております。
何やら士郎はさよを見つけたみたいですがFate×ネギまで士郎が見つけるのって新鮮・・・・・と言うか個人的には初めて見る展開なので大変期待しております。
さすがフラグ発生器。幻想殺しにも負けてないぜ!!
(・д⊂゛)士郎あんたなにやっての!!このか嬢と刹那嬢おとしちゃだめですよ。(あー、後が面倒だろうなぁ。刹那はこのかに遠慮するだろうし、このかも刹那に遠慮するだろうからなぁ、そんなことになったら士郎を許せねぇ。ただなにかがきっかけで二人一緒にってことになりそうだが(汗))
これから先誰のフラグが立つのか楽しみしています。次はほれ薬!!さぁて、士郎はどうなることやら、もしかしたら誰かに押し倒されたりwそれはないか(あながち否定できないのが怖いんだが(汗))
これから先誰のフラグが立つのか楽しみしています。次はほれ薬!!さぁて、士郎はどうなることやら、もしかしたら誰かに押し倒されたりwそれはないか(あながち否定できないのが怖いんだが(汗))
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